睡眠の役割
睡眠が不足すると、いらいらしたり、眠くなったり、元気がなくなったりしてしまい生活の質が損なわれてしまいます。また場合によっては、生命維持にかかわることさえ生じます。睡眠とはこのような状態を生じさせないための機能であると考えられています。
睡眠がうまくとれないと、大脳の情報処理能力に悪い影響が出ます。睡眠不足の時に感じる不愉快な気分や意欲のなさは、身体ではなくて大脳そのものの機能が低下していて、大脳が休息を要求していることの現れです。
また、睡眠中は脳下垂体から成長ホルモンが大量に分泌され、子どもの場合は体の成長を促し、大人では疲労回復や損傷した細胞の修復(美肌や筋肥大につながります)を行っています。さらに睡眠は免疫物質の分泌を促進するので、風邪などの予防にもなります。
不眠症の定義
米国睡眠医学会では下記のように定義されています。
睡眠の開始と持続、一定した睡眠時間帯、あるいは眠りの質に繰り返し障害が認められ、眠る時間や機会が適当であるにもかかわらずこうした障害が繰り返し発生して、その結果何らかの昼間の弊害がもたらされる状態。
【不眠症の一般的基準】
A.入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒、慢性的に回復感のない、質のよくない睡眠が続くと訴える。
B.眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、上述の睡眠障害が生じる。
C.夜間睡眠の障害が関連して、以下のような日中障害を少なくとも1つ報告する。
1)疲労または倦怠感
2)注意力、集中力、記憶力の低下
3)社会生活上あるいは職業生活上の支障、または学業低下
4)気分がすぐれなかったり、いらいらする(気分障害または焦燥感)
5)日中の眠気
6)やる気、気力、自発性の減退
7)職場で、または運転中に、過失や事故を起こしやすい
8)睡眠の損失に相応した緊張、頭痛、または胃腸症状が認められる
9)睡眠について心配したり悩んだりする
さらに日本睡眠学会では具体的な時間、期間についても定義しています。
夜間なかなか入眠できず寝つくのに2時間以上かかる入眠障害、一旦寝ついても夜中に目が醒めやすく2回以上目が醒める中間覚醒、朝起きたときにぐっすり眠った感じの得られない熟眠障害、朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう早朝覚醒などの訴えのどれかがあること。そしてこのような不眠の訴えがしばしばみられ(週2回以上)、かつ少なくとも1ヶ月は持続すること。
日本人と不眠症
不眠症は睡眠障害の中で最も高頻度に認められる病態です。日本人の一般人口を対象として行われた疫学調査によれば、成人の21.4%が不眠を訴えています。さらに、成人の14.9%が日中の眠気に悩み、6.3%が寝酒あるいは睡眠薬を常用していることが明らかにされています。
平成19年に厚生労働省が行った調査でも、国民の5人に1人が「睡眠で休養がとれていない」「何らかの不眠がある」と回答しています。不眠症は、小児期や青年期には稀であり、20~30歳代に始まり、中年以降で急激に増加し、40~50歳代でピークを示します。この背景には、人口の高齢化、ライフスタイルの多様性、生活リズムの乱れ、ストレスなどが関連していると考えられています。
不眠症の原因
①身体的原因
さまざまな身体的疾患や、その症状(痛み、かゆみ、咳、頻尿、発熱)が原因で起こる不眠。
②薬理学的原因
アルコールやカフェインなどの嗜好品に含まれる成分や、治療のため服用している薬(降圧剤、アレルギー薬、ステロイド薬など)が原因で起こる不眠。
③精神医学的原因
アルコール依存症、不安、パニック障害、うつ病などが原因で起こる不眠。
④心理学的原因
ストレス、重篤な疾患、人生の大変化などが原因で起こる不眠。
⑤生理学的原因
時差ぼけ、交代勤務、短期の入院などが原因で起こる不眠。