多夢とは、睡眠中に夢をよくみることで、多くはいやな恐い夢をみて、日中は頭がぼーっとして疲労感が残ります。時々夢をみたり、夢をみても目覚めたら何ら不快感を残さないものは正常と考えます。
現代医学からみた「多夢」
睡眠のメカニズム
睡眠には浅い眠りのレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠があります。眠りにつくと、まずノンレム睡眠があらわれ、次に浅い眠りのレム睡眠へと移行します。私たちの眠りはこれら性質の異なる2種類の睡眠で構成されていて、約90分周期で一晩に4~5回、一定のリズムで繰り返されています。
◆脳の睡眠 ノンレム睡眠
脳が眠っている状態と考えられています。眠りの深さによって4段階に分けられます。浅い眠りから深い眠りへと進み、深さのピークを過ぎると今度は逆に深い眠りから浅い眠りとなり、そのあとレム睡眠へと移行します。居眠りはほとんどがノンレム睡眠で、空いた時間にほんの少し居眠りするだけで脳の休息になります。
・入眠直後にあらわれる
・夢はほとんどみない
・身体を支える筋肉は働いている
・眠りが深くなるにしたがって、呼吸回数・脈拍が少なくなる
◆身体の眠り レム睡眠
身体は深く眠っているのに、脳が起きているような状態の浅い眠り。目覚めの準備でもあり、この時に目覚めると気分がすっきりします。
・眼球がきょろきょろ動く
・身体の力が完全に抜けている
・呼吸や脈拍が不規則
・夢をみる
夢について
人はレム睡眠時に夢をみることが多いと言われています。レム睡眠の最中に起こされると、自分がたった今夢をみていたとハッキリと認識できる傾向があります。レム睡眠は約90分周期で繰り返し発生するので、8時間眠る人は5回のレム睡眠を体験し、5回の夢をみていることになります。しかし、起きたときに5種類の夢をすべて覚えているということはなかなかありません。通常、起きたときに夢を覚えているのはせいぜいひとつの夢ではないでしょうか。それは目覚めの直前のレム睡眠の時にみていた夢だと考えられます。夢をみることと、夢を覚えているかどうか、ということはまったく別のことのようです。ほとんどの人は夢をみてもそれを覚えていないだけなのです。
中医学からみた「多夢」
不眠や多夢には、心の働きが大きく関わります。
心の生理
【心は神明を主る】
神とは感情、思考、意識、判断など、すべての精神的な働きをさす言葉です。人の精神の働きは、元来、五臓がそれぞれ分担し、また協力しあうことで成り立っています。たとえば肝には魂があり、理性、判断、意志、思惟を主り、脾には意があり、思考、記憶、集中などを主ります。肺には魄があり、本能的な感覚、運動の働きが備わり、腎には志があり、意志、信念の力あるいは記憶力が宿っています。この魂、意、魄、志すべてを総称したものが神です。神は心に宿っています。
したがって心が充実していると、精神状態は非常に穏やかで、情緒が安定し、思考能力も活発な状態になります。心の異常は、様々な精神症状をあらわしますが、とくに不安感、不眠、夢を多くみる、驚きやすいなどの症状としてあらわれます。さらに重症では、言語錯乱、精神錯乱、意識不明、無表情、無反応となってあらわれます。
【心血】
心が統轄する血を指し、脈管内を流動する血液のことです。血液は心の推動によって人体各部の組織に輸送されて栄養を与えるという役割を果たすので、この血を心血といいます。同時に心血は神志活動における基礎物質の1つでもあります。したがって、心血が旺盛であれば血脈は充溢し、顔色が紅潤で精神的にも満たされますが、心血が虚せば、動悸・不眠・多夢・唇舌が白っぽくなる・顔色に光沢がないなどの症候が現れます。
【血の生成】
脾胃が水穀を消化し、化生された精微部分や津液などの栄養成分が上方の心肺に輸送され、そこで肺の気化作用により血が生成されます。この血は脈管中に注いで全身を運行し、全身の皮毛・経絡・筋骨・臓腑などすべての組織器官に栄養を与えます。このような血液の運行は、心・肝・脾などの臓の共同作用によって行われます。
弁証施治
暴飲暴食や肉体疲労により脾のエネルギーが減少し、胃腸の消化吸収機能が低下したために、気血の生化の源が不足して気血両虚となり、心神が養われないので眠りが浅く夢をよくみます。
【症状】眠りが浅い、夢をよくみる
【随伴症状】顔色が白い、動悸、驚きやすい、物忘れ、食欲不振、腹が脹る、泥状~水様便、息切れ、物を言うのがおっくう、倦怠無力感
【舌診・脈診】舌質は淡、脈は濡あるいは細
【治法】補益心脾
【良い食材】米、山いも、じゃがいも、かぼちゃ、キャベツ、いんげん、鶏肉、牛肉、にんじん、ほうれん草、小松菜、イカ、タコ、栗、落花生、ぶどう、蜂蜜、ウズラの卵、豚ハツなど
【鍼灸治療代表配穴】心兪、脾兪、神門、大陵、足三里、太白、三陰交など
慢性病、肉体疲労、ストレスなどにより心腎が損傷し、心火が腎に下降せず、腎水が心に上昇しなくなり、心腎陰虚のため心火旺が生じ、心火によって心神が不安となる発生します。
【症状】眠りが浅い、夢をよくみる
【随伴症状】いらいら、焦燥感、体の熱感、動悸、膝や腰がだるく無力、寝汗、遺精
【舌診・脈診】舌質は紅、舌苔は無苔、脈細数
【治法】滋陰降火、交通心腎
【良い食材】百合根、黒ゴマ、卵、牛乳、豚肉、鴨肉、カキ、ムール貝など
【鍼灸治療代表配穴】心兪、腎兪、神門、郄門、労宮、太谿、復溜、湧泉など
虚弱体質で心胆が虚したり、つよい驚きや恐怖で情緒が緊張して心胆に影響がおよび、心神不安となって生じます。
【症状】恐ろしい夢をよくみる、よく目が覚める
【随伴症状】ぼーっとする、情緒不安定、驚きやすく動悸がする、おびえる
【舌診・脈診】舌質は淡、舌苔は薄白、脈細あるいは弱
【治法】益胆安神
【良い食材】米、山いも、じゃがいも、キャベツ、いんげん、干ししいたけ、鶏肉、牛肉、田ウナギ、にんじん、ほうれん草、小松菜、イカ、タコ、栗、落花生、ぶどう、ライチ、蜂蜜、ローヤルゼリーなど
【鍼灸治療代表配穴】胆兪、心兪、内関、大陵、神門、合谷など
憂うつ・悩み・怒りなどで肝の全身に気を巡らせる働きが失調し、気うつ化火して津液を濃縮したために痰が生じ、痰火が心神をかき乱すことにより多夢が生じます。
【症状】夢をよくみる
【随伴症状】頭のふらつき、動悸、いらいら、怒りっぽい、痰が多い、胸苦しい
【舌診・脈診】舌質は紅、舌苔は黄膩、脈滑数
【治法】清熱化痰
【良い食材】へちま、たけのこ、黒くわい、梨、のり、昆布、クラゲ、アサリ
【鍼灸治療代表配穴】心兪、神門、合谷、曲池、陽陵泉、豊隆、中脘、三陰交など
埼玉県川口市の中医学専門はり灸治療院
【石上鍼灸院】