現代の老化の定義と現状
「老化とは年齢にともない身体の様々な生理的機能が不可逆的に減退し、様々な老化疾患にかかりやすくなり、最終的には死に至る過程」と定義されています。
現在の日本では、5人に1人は65歳以上の方ですが、2020年には4人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えます。
※世界保健機関(WHO)では60歳以上を老人としていますが、日本の場合は65歳以上としています。
老化の原因として
・フリーラジカルによる酸化ストレス
・ホルモンレベルの低下
・免疫力の低下
・遺伝子の異変
・細胞機能の低下 など
中医学での年齢と身体の変化
『黄帝内経』という文献に、女性は7の倍数、男性は8の倍数で身体が変化する記述があります。
女 |
男 |
7歳(7×1) |
8歳(8×1) |
腎気が旺盛、歯が生えかわり、髪が伸びる |
腎気が充実、髪が長くなり、歯が生えかわる |
14歳(7×2) |
16歳(8×2) |
腎気が旺盛となり、性ホルモン(天葵)が分泌し始め、月経と関わる経絡の任脈・衝脈が通利し、発達して月経が始まる |
天葵が分泌し始め、男子は精気充実。性交により子供が作れる。 |
21歳(7×3) |
24歳(8×3) |
腎気がバランスをとり、親知らずが生える |
腎気のバランスがよく、筋肉・骨が丈夫になり、親知らずが生える |
28歳(7×4) |
32歳(8×4) |
筋肉・骨が強壮になる |
筋肉・骨が強壮になる |
35歳(7×5) |
40歳(8×5) |
顔面に分布している陽明経絡が衰え始め、顔色が悪くなり、シワが寄り、抜け毛が始まる |
腎気が衰え、髪が抜け、歯の色が悪くなる |
42歳(7×6) |
48歳(8×6) |
太陽経絡・陽明経絡・少陽経絡の3つの経絡が衰弱し、顔色が悪くなり、シワ・シミが出て、白髪が現れる |
陽気が顔から衰弱し始め、シワが寄り、顔色が悪くなり、白髪が現れる |
49歳(7×7) |
56歳(8×7) |
任脈・衝脈が虚弱し、性ホルモンの分泌が停止し、閉経する。体形が崩れ、妊娠も不可能となる |
筋は肝が主っているので、肝気の衰弱により筋の働きが悪くなる。性ホルモンがなくなるため、精が少なくなり、腎が衰え、体形も崩れる |
|
64歳以降、髪が抜け、歯も抜け落ちていく |
中医学での健康とは?
【望診】 ・均整のとれた体型
・顔色がよい
・目がきらきらと輝いている
・毛髪につやがある
【聞診】 ・声が元気
・呼吸が正常
【問診】 ・歯が丈夫
・聴力がよい
・食欲がある
・足腰がしっかりしている
・大便、小便が正常
【切診】 ・脈が緩和で平均的
精神的に安定し、記憶力が良好であること
上記の健康状態を保つには、
@「気」「血」「津液」が過不足なく充分にめぐっていること
A「五臓六腑」の働きが順調であること
B「陰陽」のバランスがとれていること
が重要です。
「気」とは、身体全体の活動エネルギー、内臓を正常に働かせる力
「血」とは、各組織に栄養を与える力
「津液」とは、潤いや体内の水分代謝にかかわっている力
これら気血が減少したために、五臓六腑が養われずに、様々な症状がみられることが、老化と考えられます。では原因をみていきましょう。
中医学で考える老化をまねく原因
@先天的に身体が虚弱
生まれつき身体が虚弱なために様々な疾患を患いやすく、また病後も身体が虚弱で病が長引いて回復できず、「気」「血」が日増しに消耗し、次第に臓腑にも影響を与え、早期の老化が起こります。
A過労、早婚多産による五臓の消耗
過労は生気を消耗しやすく、特に早婚多産の女性の場合は、人体の精気(生命の根源である力)を消耗し、精神的にも外見的にも次第に衰弱して、早期の老化が起こります。
B飲食の不節制による脾胃の損傷
暴飲暴食や夜間の食事などにより、脾胃の働き(食べたものをエネルギーに変える働き)を損傷してしまった結果、「気」「血」を作り出すことができません。そのため、身体の内部では五臓六腑に、体表では肌や経絡(エネルギーが通る道)に栄養がいきわたらず、次第に身体がエネルギー不足になり老化が早期に起こります。
C大病後の不調や慢性病による正気の消耗
大病は「気」や「血」を消耗します。とくに産後の不養生、慢性病が長引き、発症を繰り返す状態が長く続くと、他の臓腑にも影響を及ぼし様々な症状を生み出します。これらは老化を早めてしまう原因になります。
中医学で考える老化と最も関係の深い臓腑
腎
「腎は精を蔵し、発育・生殖を主る」
精とは生命の根本をなすもので、父母から受け継いだ精(先天の精)が、飲食物からつくられた水穀の精微(後天の精)の滋養をうけて形成されます。精は腎に蓄えられているので、腎精ともいいます。
腎精が充実すると、人のからだは成長、発育し、腎精が衰えると老化がはじまります。腎精が不足すると、不妊、性欲減退、インポテンツ、閉経がはやいなどの性欲・生殖機能の低下、および歯が抜ける、髪が白くなる、聴力の低下、尿失禁、足腰の衰えなどの老化現象があらわれます。
脾
「脾は運化を主る」
脾の主な働きは、胃、小腸をとおし飲食物を消化吸収させ、水穀の精微を作り出すことです。つまり、食べたものから、活動エネルギーである「気」を生産しているのです。また、水穀の精微や腎精などが結合して「血」が生産されます。「気」と「血」にとって、脾胃の働きは最も重要といえます。
脾の運化作用の失調は、食欲不振、腹部のもたれ感、食後の倦怠感や、食後の眠気、軟便、下痢、むくみなどの症状としてあらわれます。
中医学での診断
飲食の不節制、肉体疲労、思慮過多、肝病の影響などにより脾気を損傷してしまい、「気」「血」を作り出せないため、身体全体の機能減退症状がみられます。
【症状】 疲れやすい、食欲がない、食がほそい、食後眠い、食後胃がもたれやすい、便がゆるい、下痢しやすい、便の形が一定しない、排便時に最初は硬いが最後は軟らかくなる、顔・肌の色がくすんだ黄色、ときにむくむなど
【舌診・脈診】 舌質淡、歯痕、舌苔薄白、脈濡緩(虚)
【治法】 益気健脾
【良い食材】 穀類、肉類、いも類、グリーンピース、とうもろこし、米ぬか、大豆、栗など
※注意する食材:生もの、脂っこいもの、大根、ごぼうなど
【鍼灸治療代表配穴】 合谷、足三里、脾兪など
※強壮保健の常用穴として:膏肓、神闕、気海、関元、命門など
先天的に虚弱体質、出産過多、長期間の過労、性生活の不節制により腎気が損傷、不足したことで身体全体の機能減退症状がみられます。
【症状】 足腰が重だるい、からだがだるい、疲れやすい、耳鳴り、めまい、聴力低下、夜間頻尿、動作が緩慢、物忘れをする、疲労回復が遅い、腰がまがる、髪が抜けるなど
【舌診・脈診】 舌質淡白、舌苔白、脈沈弱(とくに尺脈が無力)
【治法】 補腎益気
【良い食材】 山いも、キャベツ、カリフラワー、豆類、栗、くるみ、豚骨、ウナギ、スズキ、イシモチなど
※注意する食材:生もの、脂っこいもの、大根、ごぼうなど
【鍼灸治療代表配穴】 腎兪、関元、太谿、三陰交など
※強壮保健の常用穴として:膏肓、神闕、気海、命門、足三里など
「腎気虚」タイプに冷えの症状が加わり、症状が進行していることを示しています。先天的に腎気が弱い、長期間の過労、性生活の不節制、冷たいものの過食などから、身体を温める作用が著しく低下したものです。
【症状】 顔色が青白い、寒がり、足腰が冷える、尿が透明、朝方(3〜5時)の下痢・軟便、むくみ、インポテンツ、不妊、足腰が重だるい、耳鳴り、めまい、聴力低下、夜間頻尿、物忘れをする、動作が緩慢など
【舌診・脈診】 舌質淡白、胖大、嬌嫩、舌苔白、脈沈細弱(とくに尺脈が無力)
【治法】 温補腎陽
【良い食材】 くるみ、羊肉、熊肉、スズメ、イワナ、エビ、ナマコ、にら、山椒など
※注意する食材:にがうり、とうがん、セロリ、梨、すいか、りんご、緑茶、豆腐、生ものなど
【鍼灸治療代表配穴) 命門、腎兪、太谿、気海、関元など
※強壮保健の常用穴として:膏肓、神闕、足三里、大椎など
先天的に腎気が弱い、長期間の過労、性生活の不節制、温燥の薬物を過量に服用することなどにより、身体を養う「精」や「血」、身体を潤す「津液」が不足してしまった状態。身体の内外を潤すことができないために、ほてりや乾燥症状がみられます。
【症状】 足腰がだるい、めまい、耳鳴り、不眠、悪夢をみる、体がやせる、のどが渇く、寝汗をかく、手足のほてり、午後から微熱がでる、遺精、生理が少ない、閉経、便秘、物忘れをする、尿が黄色い、視力減退など
【舌診・脈診】 舌質紅、裂紋、舌苔少〜無苔、剥苔、脈細数
【治法】 滋補腎陰
【良い食材】 白きくらげ、ごま、黒豆、ウズラの卵、鶏卵、烏骨鶏、鴨肉、豚肉、亀肉、アワビ、カキ、ムール貝、ホタテ貝、ぶどう、イカ、赤貝など
※注意する食材:ねぎ、生姜、にんにく、にら、らっきょう、唐辛子、鶏肉、羊肉など
【鍼灸治療代表配穴】 関元、太谿、復溜、三陰交、湧泉など
※強壮保健の常用穴として:膏肓、神闕、気海、足三里など
肝は「血」を貯蔵し、腎は「精」を貯蔵します。また、肝血は腎を滋養し、精を生成します。腎精は肝を滋養し、血を生成します。このように肝と腎はお互いに協力し、必要な時に変換しあいます。
それが、生まれつきの虚弱体質、ストレス、長期間の過労、性生活の不節制などによりこの臓器の働きが失調すると、「血」や「精」の不足を生じ、早くから老化症状がみられます。
【症状】 足腰がだるい、元気がない、物忘れをする、耳鳴り、めまい、目の疲れ、不眠、生理不順、ほてりなど
【舌診・脈診】 舌質紅、舌苔少、脈弦細
【治法】 滋補肝腎
【良い食材】 山いも、セロリ、白菜、豆腐、ゆば、卵、牛乳、豚肉、貝類
※注意する食材:ねぎ、生姜、にら、唐辛子、羊肉など
【鍼灸治療代表配穴】 腎兪、肝兪、関元、風池、太衝、三陰交、太谿など
※強壮保健の常用穴:膏肓、神闕、気海、足三里など
日頃からできる老化予防は、「夜更かしをせず睡眠時間をしっかりとるなど規則正しい生活をし、自分の身体に合ったものを適量食べ、適度に運動をし、ポジティブ思考で、適度に笑うこと」(楊先生談)が大切です。何となく分かっているようで、なかなかできませんよね。私はむかし、勉強や自分の趣味の時間を優先するために睡眠時間をさいていましたが、疲れが取れない・目のクマが常にある・軟便が続くなどの症状を感じていました。今は睡眠時間を「自分の身体を良い状態に維持し、日々の生活を充実させてくれるための時間」と考え、7〜8時間は寝るようにしています。今では「疲れた」とはあまり言わなくなりました。皆様も忙しいとは思いますが、休みの日などをうまく利用し良い睡眠を取ってください。快眠・快食・快便が健康のバロメーターですので。
どんな運動がいいのか?どれくらいがいいのか?分からないことも多いですよね。次は運動についてお話していきます。
老化予防のための運動
有酸素運動と無酸素運動の違いは、運動するときのエネルギーが糖質メインなのか脂質メインなのかの違いです。糖質がエネルギーに換わるときに酸素は必要ありませんが、脂質がエネルギーに換わるときには酸素が必要となります。100m走のような爆発的な力を発揮する短時間の運動を無酸素運動(厳密にはATP-CP系ですが)といい、糖質をメインに運動を行っています。逆に、マラソンのような長時間の運動は有酸素運動といい、脂質をメインとして運動を行っています。息があがるような運動は無酸素運動となりますので、スイミングが有酸素運動で良いと聞いたからといって、25mも泳げない方ががむしゃらに泳いでも、糖質を多く消耗してしまい、体脂肪の消費はごくわずかになります。そんな方は、無理せず水中ウォーキングをされると有酸素運動を行っていることになります。
一般的には心拍数が110〜120bpm/分くらいまでの運動が有酸素運動になってきますが、もちろん個人差がありますので、自覚強度的には「少し息があがるが、隣の人と話ができる」くらいの強度と考えてください。
【有酸素運動のメリット】
・呼吸循環機能の改善
・インスリン感受性の改善:血糖値を下げる効果
・中性脂肪の低下、善玉コレステロールの増加:動脈硬化を予防
・高血圧に対する降圧効果
【どのくらい有酸素運動を行った方がいいのか】
アメリカスポーツ医学会の指針
「中等度の強度の運動を少なくとも計30分、週の大部分かできれば毎日行うこと」
一見するとかなり大変そうですが、どなたでも出来る内容なのです。細かくみていくと、中等度の強度の運動とは、心拍数110bpm/分程度の運動で少し息がはずむ程度、つまりウォーキングと考えてください。ただし、普段歩くスピードより少し早く歩いてください。次に、計30分とは、30分間歩き続けてくださいという意味ではありません。10分間のウォーキングを3回行い、合計30分という意味です。30分歩き続けても、朝、昼、晩に10分づつ歩いても効果に大きな差はないという研究結果がでています。つまり、スーパーまでの10分間早歩きをして行き、帰りも早歩き。あと10分は夕方に散歩をします。この程度で十分に有酸素運動の効果が身体に現れるのです。運動は意気込むと疲れてしまします。気楽におこない、長続きさせましょう。
筋力トレーニングは、比較的高強度の負荷を用いて短時間に行う運動です。つまり、無酸素運動ということになります。老化予防には有酸素運動だけで良いと思っている方が多いのですが、筋力トレーニングも非常に重要となります。例えば、肌のハリやツヤを保つ効果。これは成長ホルモンが関係します。筋力トレーニングを行うと乳酸が発生し、それにより成長ホルモンが分泌されます。乳酸は糖質をエネルギーに換えることで発生する物質ですので、有酸素運動ではそう多く発生しません。つまり、有酸素運動では成長ホルモンの分泌が少ないということです。最近は加圧トレーニングが注目されていますが、加圧トレーニングを行うと安静時の100〜300倍の成長ホルモンが分泌されるそうです。(グンゼスポーツクラブ ケアルーム院長森田氏談)
【筋力トレーニングのメリット】
・体型や姿勢の改善、肥満予防
・整形外科的障害の予防、改善
・加齢に伴う筋量減少(サルコペニア)予防
・骨密度の改善
有酸素運動のみでは筋肉量の減少を防ぐことができないことが、研究によって明らかになっています。筋肉量が低下するということは、毛細血管への血流量の低下や代謝の低下につながります。つまり老化につながってしまうことになります。
でも、今から筋力トレーニングをして意味があるのかと思われている方もいるかもしれませんが、安心してください。これも研究で明らかになっていますが、90歳でも筋力トレーニングを行うことで筋肉が肥大することが分かっています。ではどんな筋力トレーニングを行えばいいか?
【どんな筋力トレーニングを行えばいいか】
アメリカスポーツ医学会の指針
・すべての主要筋群を鍛えるような8〜10種目を1セット行うことを推奨
・回数は10〜15回(自覚的運動強度は12〜13、つまりややきついと感じる強度)
・少なくとも週2回で48時間以上の休息をあける。週4日以上の実施は望ましくない
・全身の筋力トレーニングの持続時間は20〜30分以内が望ましい。
以上の内容はかなり安全な実施内容です。体力がある方は各種目3セット行うことをお勧めします。
主要筋群とは、お腹、腰、腿、お尻、胸、背中、など体の中心にあり、抗重力筋の筋肉をいいます。トレーニング種目として、スクワット、クランチ(腹筋)、ダイアゴナルエクステンション(対角状に腕と脚を交互に伸ばす体幹運動)、プッシュアップ(腕立て伏せ)、チンニング(懸垂)、ヒップリフトなどの自体重トレーニングでも十分に筋肉を刺激できます。筋力トレーニングは少しツライと感じる方も多いかもしれませんが、1ヶ月も続けるとご自分の体が変わってきていることに気づかれると思います。筋肉や肌のハリが違ってくるのをご自分で体験してください。
2011年に「1日15分程度の運動をするだけでも、運動を全くしない群と比べて全死亡リスクが14%低下し、平均寿命が3年延びる」と新しい研究発表がありました。運動が身体にとって良いことは明らかです。だからといって、運動しなくてはと思うと義務になってしまい、ストレスにもなってしまいますので、良い空気を吸いに行くための散歩程度に考えてください。そのために靴を履き、家の外に出ることが、最終的には老化防止・健康維持につながりますので。
中医鍼灸では「未病治」といい、病気の症状が出る前の段階(半健康状態)を診断し、治療することに長けています。上記中医学診断でのタイプの症状がある方は、お近くの中医鍼灸院で相談されることをお勧めします。