冬に外出して手足が冷たくなるのは当然ですが、部屋に入って身体は温まっているのに、手足だけ冷えている場合は『手足の冷え』があると考えてもよいかもしれません。また、夏でも冷房によって手足が年中冷えている方も多いかと思います。「冷えは万病の元」です。ひどくなる前に改善していきましょう!
現代医学からみた「手足の冷え」
現代医学では『冷え』を病気とは捉えていません。「冷え性」を「冷え症」と書かないのは、病名ではなく体質のことだからです。冷え性を診断するための検査はありませんし、現代医学の治療の中に「冷え性の治療」というものはありません。
では、冷え性のままでも健康に問題がないかというと別の問題です。体温が低いと、免疫力の低下・血流低下・代謝が悪くなるなど他の疾患の原因となりうるからです。
冷え性の定義・症状
そもそも冷え性の定義は、はっきりと決まってはいません。
・夏でも体が冷えている
・手足が常に冷たい
・人よりも寒がり
といったように非常にあいまいな基準で、本人が「自分は冷え性だ」と自覚しているケースがほとんどです。ただ、中には冷えという自覚症状がなく、基礎体温を測ってみたら常に36℃以下だったり、体は温かくてもお腹の中、つまり内臓が冷えているという場合もあります。
冷え性の人は血液のめぐりが悪くなっているので、どちらかというと血色が悪く、毛細血管が縮んでしまっていることが多いです。そのため、冷え性の女性の中には、むくみ・月経不順・不妊といったトラブルを抱えている人が多く見受けられます。
冷え性の原因
冷え症の原因は、血行不良と熱の産生不足です。体を冷やす外的刺激が多いと冷え性になりやすい体質を作ってしまいます。
・クーラーや薄着など体を冷やす機会が多い
・きついガードルやデニムなど体を締め付けるものが多く血液の流れを妨げる
・ファストフードや加工食品、甘いものなど体を冷やす食べ物を多く摂っている
・運動不足である
・バランスの悪いダイエットで脂肪よりさきに筋肉が減っている
・ハイヒールや悪い姿勢で骨盤がゆがみ血行が悪くなっている
上記の原因が考えられますが、特に重要なのが「運動不足」と「食生活」です。
◆運動不足による筋力の低下について
男性は25歳から、女性は20歳から筋力は低下します。しかも、以前に比べて学生時代の運動量が減少していますので、20歳以下の方でも筋力不足がみられます。身体を温めるには血液の循環が重要です。特に静脈は筋肉のミルキングアクション(収縮弛緩を繰り返すことで静脈を圧迫し、血液を心臓に返す働き)により血液を心臓に戻しています。運動量と筋肉量が少ない方は、ミルキングアクションの低下が起こり血液の巡りが悪くなり、冷え症やむくみといった症状がでてきます。60歳以上の方でも、運動により筋肉量が増加しますので、ウォーキングのような負担の少ない運動から行うことをお勧めします。
◆食生活について
朝食を抜いてしまったり、冷たい飲み物やナス・トマトなどの生野菜の食べ過ぎは身体を冷やしてしまいます。3食きちんと食べることと、以下の身体を温める食品を積極的に摂るようにしましょう。
≪身体を温める食品≫
(穀類) もち米
(肉類) 羊肉、鶏肉、牛肉
(魚介類) えび、なまこ、あなご、いわし
(野菜) にら、ねぎ、ししとう、かぼちゃ、しょうが、にんにく、らっきょう
(木の実) 栗、くるみ、なつめ
(香辛料) こしょう、山椒、シナモン、黒砂糖
(お茶) 杜仲茶、ジンジャーティー黒砂糖入り、よもぎ茶
冷え性が女性に多い理由
冷え性は男性より女性の方が圧倒的に多いのが特徴です。
◆血管が細い
女性の方が男性に比べて血管が細く血液の流れが滞りやすいため、手足まで十分な血流がいきわたらなくなりやすいといえます。
◆筋肉量が少ない
熱を作り出すもととなる筋肉量が圧倒的に少ないために、どうしても熱量不足になりやすく平熱も低くなりがちになります。
◆心臓のポンプ能力が弱い
特に運動習慣のない人は心臓が血液を押し出す力も弱く、血行が悪くなりやすいといえます。
◆自律神経のバランスが崩れやすい
体温や血圧をコントロールしている自律神経のバランスを崩しやすいのも女性の方です。
◆骨盤の形が丸い
女性と男性の骨盤を比べると、女性の方が丸く、また狭い骨盤の中に子宮や卵巣が収まっているために、女性の方が骨盤内の血流が悪くなりがちです。
冷え性によって引き起こされること
◆免疫力の低下
体温が1℃下がると免疫力は約60%になると言われています。このため体が冷えるとカゼをひきやすかったり、膀胱炎などちょっとした炎症を繰り返しやすくなります。
◆月経不順
骨盤内が冷えて血行が悪くなると卵巣への血流も滞りがちになるため卵巣機能が低下します。その結果、月経不順を引き起こすことが考えられます。
◆月経痛
子宮の周りの血流が悪いと月経時に子宮の周りに血液がたまった状態になり痛みが出やすくなります。
◆内臓機能の低下
食べ物を消化したり、体の機能を保つために必要な酵素は約37℃で最も効率よく働きます。そのため、体の内部の温度が低いと酵素がうまく働かず、内臓の機能そのものが悪くなってしまいがちです。
◆不妊症
子宮や卵巣への血流が悪くなると、卵巣機能が低下したり、子宮内膜がきちんと厚くならなかったりするために妊娠しにくくなることがあります。
◆痩せにくい・むくみやすい
代謝が悪くなるため冷えている部分が特に痩せにくく、血流も滞るのでむくみやすくなります。
中医学からみた「手足の冷え」
冷え性は、中医学でいえば陽虚証に属することが多くみられます。冷え性の主な症状は、四肢・腰・腹など身体に冷感があり、ときに疼痛も伴い、温めると楽になるというものです。ひどくなると頭痛・肩こり・顔色がむくんだように白い・精神不安・疲れ・動悸・息切れ・汗をかきやすいなどの症状があらわれます。また体液、例えば唾液・よだれ・鼻水が水のように薄く、小便の量が多く色が薄い、下痢を伴うこともあります。
中医学で考える病因病機
①生まれつきの心陽・脾陽・腎陽の虚弱体質、あるいは病気が原因で陽虚証となる
②生活環境の影響、飲食の不節制などが原因となり、体内に寒邪がたまって冷えがみられる。
③気滞血瘀により全身に気血が行きわたらず、温煦作用が失調するため冷えの症状が現れる
④血虚による血瘀となり、血行が悪くなり、特に四肢末端まで血液が行きわたらず冷えを起こす
陽虚証とは?
まずは、『陰陽』という考え方についてお話します。
◆陰陽とは?
最初の陰陽の概念は大変素朴で、日光に対して向かい合うか背を向けるかの違いで陰陽が決定されました。日光に向かい合うものが陽、背を向けるものが陰とされました。古代中国人は、まずすべての事物・現象には正・反という2つの側面(陰陽)があることを観察しました。すなわち気候の寒暖、方位の上下・左右・内外、運動状態における動静などです。そして、その観察結果から得られた陰陽の概念をもって、自然界のすべての現象を分類し、万物が流転・変化する自然界の法則を、陰と陽が互いに対立し、また成長するシステムとして示したのです。すなわち、陰陽とは、自然界に存在する事物と現象が相互に対立しながらも統一されている様相を説明する概念ともいえます。さらに陰と陽とは事物間の対立を代表するだけでなく、1つの事物に存在する相互対立をも示します。このように万物は無限に陰陽に分割されていき、その様相を固定的にとらえることはできません。
一般的に、「陽」は軽清・機能・亢進・運動。上昇あるいは熱性の性質といった側面を、「陰」は重濁・形態・衰退・静止・下降あるいは寒性の性質といった側面を代表します。例えば、1日のなかでは、昼が陽で夜が陰、また季節では炎熱の夏季が陽で寒冷の冬季が陰となります。
◆陰陽失調
陰陽が平衡協調のバランスを失った状態をいいます。物質と機能とが相対的な陰陽の協調関係を保持することによって、はじめて人体の生理活動は正常に維持されます。これが「健康」という言葉の意味と捉えます。疾病とは、各種原因によって体内の陰陽の協調関係が失われた結果として生じるものです。病変の部位・病勢の趨勢、病性の寒熱の違い・正邪虚実の消長など、疾病をどのような観点からとらえても、最終的には病はすべて陰陽の偏勝または偏衰という観点から把握できると考えています。
◆陽気とは?
陰気と相対する意味で用いられる概念で、事物の対立における一方の側面をさします。すべての陽的な属性を有する事物、あるいは事物の内部の陽に属する側面を概括して陽気といいます。おもに、外表をめぐるもの、上昇傾向があるもの、旺盛なもの、軽清なものはいずれも陽気です。
◆では、陽虚とは?
陽気が不足し、機能が低下した証候をさします。陽虚になると寒を生じるため、症状としては、疲労倦怠感・息切れ・言語無力・寒がる・汗をかきやすい・手足の冷え・顔色が白っぽい・下痢状便・小便が透明で量が多いなどがみれらます。
瘀血とは?
瘀血とは、経脈外に溢れて組織間に溜まった血液、運行が阻まれ経脈内に留滞した血液、あるいは器官内にうっ積した血液をさします。中医学の瘀血の概念は以下のようなものです。
①一種の病理産物です。
例えば、気虚・気滞・血寒・血熱および外傷などは、すべて血行を悪くして血を凝滞あるいはうっ積させ、それによって瘀血が生じます。
②一種の発病因子です。
瘀血が生じると、正常な血液の濡養作用を失わせるだけでなく、さらに全身または局部の血液の運行にも影響し、気機の阻滞・経脈の閉塞・臓腑機能の失調をもたらして、多くの難治病を引き起こします。例えば、外傷性の難治性頭痛などがあります。
③一種の病証です。
瘀血による病証の症状の現れ方は複雑ですが、次のような共通点があります。
・刺痛・固定痛・押さえると痛む・夜間に痛みが激しくなる
・肌表の腫塊、外傷によるものは青紫色の腫脹がみられ、痞塊は固定していて移動しない
・出血、色は暗紫色で、さらに血塊をともなう
・顔色は黒く、肌膚甲錯、チアノーゼを呈する
・舌質は紫暗色、あるいは瘀点や瘀斑がある、舌下静脈の怒張
・脈は細渋、沈弱または結代など
弁証施治
脾陽と腎陽は相互に助け促進しあっています。脾の働きで腎精(成長を促すエネルギー)を補充し、腎陽は脾陽を温め消化吸収を補助しますが、生のものや冷たいものを食べ過ぎたり、加齢、慢性病などが原因で脾腎陽虚となると手足の冷えが生じます。
【症状】手足が冷え甚だしければ肘や膝まで冷える、寒がり体を縮めて寝る
【随伴症状】顔面蒼白、元気がない、未消化下痢、関節の痛み
【舌診・脈診】舌質は淡、舌苔は白滑、脈沈弱
【治法】温補脾腎
【良い食材】にら、らっきょう、唐辛子、羊肉、鶏肉、エビ、マス、アジ、サケ、ナマズなど
【鍼灸治療代表配穴】脾兪、腎兪、命門、気海、関元、足三里、三陰交など
ストレスや飲食の不摂生により、外邪が化熱して体の中に入り、裏熱が盛んなために陽気が妨げられて四肢末端に達することができずに手足の冷えが生じます。
【症状】手足の冷え
【随伴症状】温まるのを嫌がる、口や舌の乾燥、口渇があり水を飲みたがる、便秘、顔面紅潮
【舌診・脈診】舌質は紅絳、舌苔は黄燥、脈滑数
【治法】清熱瀉火
【良い食材】セロリ、白菜、じゅんさい、タンポポ、にがうり、きゅうり、トマト、緑豆、茶葉など
【鍼灸治療代表配穴】曲池、合谷、内庭、曲沢、委中、大椎など
ストレスや飲食の不摂生により、肝気が鬱して陽気を四肢に通達できないために手足の冷えが生じます。
【症状】手足の冷え、肘や膝より上は冷えを感じない
【随伴症状】胸脇部が脹って苦しい、げっぷがでてすっきりしない、嘔吐、下痢、腹痛
【舌診・脈診】舌苔は薄白、脈弦
【治法】疏肝健脾
【良い食材】そば、生姜、ねぎ、らっきょう、えんどう豆、みかん、ゆず、オレンジ、なた豆など
【鍼灸治療代表配穴】肝兪、期門、太衝、脾兪、内関、足三里、章門など
血虚(血の不足によって臓腑・経脈が滋養されないためにあらわれる証)の体質の者が寒邪を受けて血脈の運行が阻害され、寒邪が四肢に凝滞するために生じる。
【症状】手足の冷え、脚腕が冷たい、寒がる
【随伴症状】顔色が萎黄、皮膚が蒼白、腹が冷えて痛む、体が痛む
【舌診・脈診】舌質は淡、舌苔は薄白で滑、脈細
【治法】温経通絡、益気補血
【良い食材】生姜、ねぎ、にら、唐辛子、山椒、こしょう、黒砂糖、アジ、サケ、マス、栗、鶏肉、豚足など
【鍼灸治療代表配穴】膈兪、脾兪、腎兪、合谷、足三里、気海、三陰交など
胃腸の働きが弱いなどにより痰湿が盛んな体質で、その痰湿により陽気が全身にいきわたらないために生じる。
【症状】手足の冷え
【随伴症状】胸や腹部が脹って苦しい、口が粘る、よだれやつばが出る、空腹感はあるが食べたくない
【舌診・脈診】舌苔は白膩、脈沈滑
【治法】扶脾化痰
【良い食材】米、はと麦、とうもろこし、里芋、いんげん、からし菜、豆乳など
【鍼灸治療代表配穴】陰陵泉、足三里、中脘、脾兪、豊隆など
ストレスや情緒不安定、その他の病気によって気の流れが滞り、血行が悪くなり、気血循環が阻滞されるため陽気の働きが低下し、温煦作用が失調して生じます。
【症状】四肢や腰の冷え、寒がる
【随伴症状】うつ傾向、胸脇脹満、疼痛、腹痛、下痢または便秘
【治法】疏肝理気、活血化瘀
【良い食材】そば、大根、ねぎ、生姜、香菜、玉ねぎ、にら、みかん、オレンジ、レモン、ジャスミンなど
【鍼灸治療代表配穴】内関、足三里、太衝、中封、肝兪、膈兪、委中、血海、三陰交、天枢、合谷など
血虚の体質・脾胃虚弱・病後・ストレスなどの原因により陰血虚損となり、血行障害を引き起こして生じます。
【症状】四肢や腰の冷え、寒がる
【随伴症状】めまい、動悸、不眠、四肢のしびれ、生理不順、経血の量が少なく、色淡あるいは血塊がある
【治法】養血益気、活血化瘀
【良い食材】穀類、かぼちゃ、いも類、ライチ、ぶどう、落花生、栗、くるみなど
【鍼灸治療代表配穴】膈兪、三陰交、血海、脾兪、足三里、気海、太衝、合谷など
手足の冷えに効く民間療法
◆ニラ汁
ニラは血液循環をよくする食べ物です。刻んだニラをすり鉢でよくつき、ガーゼで搾って汁をとります。さかずき1杯分を100mlのお湯で割り、これを1日3回飲みます。体が温まり、手足の冷えの解消に役立ちます。また、ニラをおかゆに入れたにら粥も同様の効果があります。
◆ごま蜂蜜
ごまは毛細血管の血液の流れをよくするビタミンEが豊富に含まれています。このごまと、消化・吸収のよいブドウ糖や果糖を多く含む蜂蜜とを合わせたごま蜂蜜は、手足の冷える人にお勧めです。炒ったごまをすり鉢ですり、蜂蜜を適量加えます。これを毎日大さじ1杯ずつ食べるとよいでしょう。
埼玉県川口市の中医学専門はり灸治療院
【石上鍼灸院】