脈診とは?
脈診とは、脈の拍動の打ち方、性状、脈拍数を診て、臓腑経絡の異常や病因、病理を解釈するものです。一般的に脈診というと、手首の橈骨動脈の状態を診ます。
脈診法には、脈状診、六部定位脈診、人迎気口診などがありますが、ここでは脈状診に絞って話を進めていきます。六部定位脈診も非常に有益な脈診法ですが、経絡治療の話も出てきてしまうため、ここでは中医学教室ということで脈状診を中心にしたいと思います。また、脈診は施術者側の主観的要素が強い診察法(舌診と違い患者さんが確認しづらい)なので、出来るだけ患者さんが自分で確認できるような内容で話を進めていきます。また、施術者側が脈診で何を診ているのか、ある程度分かっていただけるような内容にしたいと思います。そのため、鍼灸師が読むと内容が浅い!と感じるかもしれませんがご容赦ください。
自分の脈を確認するときには、右の写真のようにして脈をとってください。
正確な場所の説明もしたいのですが、ここでは細かいことは説明せず、中医学の知識がない方に脈診について知ってもらいたいので、ざっくりで進めます。
注意してほしいのは、脈はいつも同じではないということです。脈は自律神経の支配なので、寝ている時と立っている時では違いますし、食前と食後でも違ってきます。もちろん怒っている時とリラックスしている時でも違います。自分の脈が安静にしているのに速いとか、弱々しいなどいつもと違うのを確認することが自分の体調を管理するうえで大事かと思います。
正常な脈とは?
正常な脈を平脈といいます。以下に平脈の特徴を載せますが、自分で確認してもこれが平脈なのかどうか分からないかもしれませんし、私個人としても患者さんの体格などの個人差が大きいと感じていますので、深く考えすぎないようにしてくださいね。
@不浮不沈:脈の位置が浮でも沈でもない
A三部有脈:脈が短くもなく長すぎない
B不大不小:脈の太さが太くも細くもない
C不遅浮数:脈拍が遅くも速くもない
D柔和有力:脈管が柔和(脈管壁の緊張に過不足がない)で按じても力がある
E従容和緩:脈の流れがゆったりと緩和である
F節律一致:脈拍が間歇的あるいは規則的に停止しない
G尺脈有根:尺部(薬指の当たっている所)で沈取しても有力
次からは平脈から外れた脈の状態について説明します。
一般的に病脈は28種類あるといわれていますが、今回は自分で確認しやすい数種類だけにします。
脈の速さ・リズム
自分で最も確認しやすいのは、脈のスピードと規則的かどうかのリズムです。
1分間に何回脈をうっているか、脈が跳んでいるかは確認しやすいですよね。
【遅脈】
遅脈は、拍動が1分間に60回以下の脈をいいます。
寒証、病邪阻滞による気血の凝滞、腎虚にみられます。
陽気が衰えたり、寒邪などで、気の働きの一つである血などを推し動かす働き(推動作用)が弱かったり、妨げられると脈が遅くなるためです。
注意すべきは、便秘や一定の時間になると熱が出たり、舌が紅いなどの熱の症状(陽明腑実)でもみられる点です。
熱邪が結実してしまい、推動作用を妨げるからです。
分かりづらいかもしれませんが、中医学は経験医学です。
経験から導き出しています。
私の経験談ですが、駆け出しのころ、便秘がひどい方がいました。
実熱により水分が少なくなり便が硬くなっている証とみました。
熱邪なので脈は速くなるのではないかと思ったら、実際は遅脈でした。
当時は数脈だったら分かりやすいのになぁなんて思いながら脈診をしていたのを思い出します。
運動をしている方は、スポーツ心臓の場合もあるのでその考慮も必要です。
【数脈】
数脈は、拍動が1分間に90回以上の脈をいいます。
熱証を主ります。
また、消耗熱、衰弱熱を意味して、体力の消耗が激しい場合にもみられます。
実熱、虚熱が強くなると、熱性興奮により心拍数が速くなるというのが理由です。
発熱時は脈が速くなりますよね。
これが実熱です。
虚熱は分かりづらいですが、体の中の陰と陽のうちストレスなどで陰の成分が少なくなり(陰虚)、体内の熱を冷ますことが出来なくなって、熱が亢進した状態です。
もちろん、体を動かした後や緊張していると脈は速くなるので、そのことも考慮してください。
【結脈】
結脈は、緩慢で間歇的に脈が停止し、その停止に規則性がない脈をいいます。
気・血・痰・飲・食(五積)などの積滞や、怒りや憂慮などの精神情緒失調により気血の運行が悪くなったり、気血が衰えて拍動が継続できず休むために起こります。
脈が強いか弱いかで、滞っているのか、衰えているのかをある程度判断します。
ただし、病院で全く問題のない不整脈ですといわれる方も多くいます。
先天的な不整脈の方もいるので、無病の結脈があることも考慮します。
【促脈】
結脈と同様に不規則に停止する脈ですが、心拍数が速い脈をいいます。
数脈を兼ねるので、90回/分前後以上の心拍数です。
熱邪が盛んになり、気血の運行を妨げたり、体水分を濃縮したりして、五積の積滞を引き起こすためです。
炎症や精神的な緊張による過度な交感神経の興奮と考えることもできます。
まれに陽盛陰不足による虚脱もあるので注意が必要です。
脈の強さ
脈の強さにも体質や体調があらわれます。
体格や生活スタイルなども多少考慮する必要があります。
患者さんでいつも強い脈だと感じていた人がいましたが、その方は毎回来院直前に一服していたということがありました。
【実脈】
脈に軽く触れても、深く押しても力強く押し返してくる脈をいいます。
熱邪などの邪気と体が闘っているときにみられます。
火熱亢盛のときは、さらに脈が大きく長くなります。
他に五積の停滞でもみられます。
実脈と有力な脈(正気が充実している脈)との違いは少し難しいので、いつもより脈が大きくて押し返しが強いなぁくらいで診るのがいいかと思います。
【虚脈】
脈を按じると無力で空虚な感じになる脈をいいます。
力が無いというのは、一番はっきり脈が触れる位置で少し按じたときに脈の抵抗力がなくなる場合を指します。
このへんは主観的要素が強くなるので分かりづらいですが、脈が強いのか、弱いのかを毎日感じるだけでもいいかと思います。
虚脈は虚証を主るので、気虚、血虚あるいは気血両虚でみられます。
貧血や胃腸機能の失調でみられやすいですが、弱っている時全般にみられると考えられます。
まとめ
脈状には他に、脈の位置が浮いていたり沈んでいたりでカゼをひいているなどをみたり、脈管の硬さで自律神経の状態をみたりしますが、これらの脈状は特に施術者の主観的要素が強いので別の機会に説明したいと思います。
まずは、毎朝起床時にご自分で脈をみてみてください。
強いか弱いか、脈がいつもより速くなっていないか。
いつもと違えば日常生活に少し注意しましょう。
運動をする人であれば、オーバーワークになっていると朝の心拍数が速くなることが分かっています。
脈が弱ければ、疲れでやる気が低下しているかもなぁとか考えれば、日々の過ごし方も違ってくるのではないでしょうか。
埼玉県川口市の中医学専門針灸治療院
【石上鍼灸院】