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埼玉県川口市の中医学(中国伝統医学)に基づく施術を行っている鍼灸院です。

〒332-0023 埼玉県川口市飯塚3-7-28TEL:048-446-9860

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筋肉に力が入らない

中医学では、肢体の筋肉が弛緩・筋力低下、あるいは筋肉萎縮を伴う病症を『痿証(いしょう)』といいます。現代医学での、ギラン・バレー症候群や運動ニューロン疾患(筋萎縮性側索硬化症)などにみられる症状です。神経や代表的な疾患のお話をしてから、『痿証』について説明いたします。

現代医学からみた「痿証」

筋力低下・運動麻痺の意義

 筋力低下(筋脱力)が高度になって運動が障害される状態を運動麻痺といいますが、筋力低下と運動麻痺との間に明確な区別はありません。主として錘体路障害、すなわち上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの障害が運動麻痺を起こします。

●錘体路とは?
錘体路
 錘体路は、随意運動の伝導路です。大脳皮質の運動領にある巨大錐体細胞から起こる突起は、内包を通って脳幹から遠く脊髄へ下り、脊髄の前角細胞に達してシナプスをつくります。前角細胞の突起は、脊髄の前根を通り、末梢神経となって支配する筋に達し、運動終板を介して興奮を骨格筋に伝えます。
 錘体路は、延髄の腹側面に錐体と呼ばれる盛りあがりを作って下行するところからその名があります。大半の線維は延髄下端の錐体交差で交差し、反対側の側索を下行しますが、10~20%の線維は交差しないで同側の前索をそのまま下行し、前角細胞に終わる高さで交差し、結局すべての錘体路が対側の前角細胞に終わることになります。そのため、脳卒中などの障害は、障害とは反対側の半身不随を起こします。

●上位運動ニューロンとは?
 大脳皮質運動野や脳幹に始まり、運動情報を下位運動ニューロンに伝える経路、またはその神経細胞をいいます。

●下位運動ニューロンとは?
 脊髄などの中枢神経から起こり、上位運動ニューロンから伝えられた運動情報を筋繊維へと伝える経路、またはその神経細胞をいいます。

筋力低下・運動麻痺の病態

 随意運動は錘体路系によって行われるものであり、上位運動ニューロンの障害は運動麻痺を起こします。下位運動ニューロン、すなわち末梢神経の病変もやはり運動麻痺を起こします。なお障害の程度が軽いと、回復時には筋力低下が生じますが、運動は可能となります。
 筋原性筋萎縮(神経筋接合部などの病変によるもの)では、一般的に近位筋(体幹、上腕、大腿の筋)が侵され、神経原性筋萎縮(末梢神経などの病変によるもの)では、遠位筋(前腕・下腿から先の筋)が細くなり力が入らなくなります。

病変部位による運動麻痺の分類

麻痺の分類
 運動麻痺は上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害に分けられます。上位運動ニューロンは大脳皮質の中心前回から脊髄前角細胞に至るもので、この運動麻痺は中枢性麻痺とよばれます。下位運動ニューロンは脊髄前角細胞から筋に至るもので、この運動麻痺は末梢性麻痺とよばれます。脳神経においては、その運動核に至るまでの障害によるものが中枢性麻痺で、その運動核以下のものが末梢性麻痺となります。

筋力低下・運動麻痺を起こす疾患

 上位運動ニューロン障害は、大脳・脳幹・脊髄の病変であり、鍼灸院での範疇をこえているので、ここでは下位運動ニューロン障害、筋症について説明してまいります。ただし、筋萎縮性側索硬化症については下位運動ニューロンの症状もみられるので、先にお話しします。

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力が低下していく疾患です。原因は不明で、10万人に約1人罹患すると考えられています。男女比は2:1で男性に多く認められ、最もかかりやすい年齢は50~60歳代です。上位運動ニューロン(錘体路)と下位運動ニューロンがともに変性することが原因で症状が生じます。

【症状】 
 ・一側上肢遠位筋の筋力低下・筋萎縮で発症するものが多い

①下位運動ニューロン
 ・筋力低下:一側性から両側性になる。上肢から下肢へ拡大
 ・筋萎縮:小手筋(母指球筋、小指球筋、骨間筋)、舌筋から萎縮が始まる
 ・線維束性攣縮

②上位運動ニューロン障害
 ・深部反射亢進(進行すると低下)
 ・バビンスキー反射 陽性

③球麻痺症状(延髄の下位運動ニューロン障害)
 ・嚥下障害、構音障害
 (呂律がまわらなくなったり、食事がのみこみにくくなる)
 ・舌の萎縮・線維束性攣縮

  • ギラン・バレー症候群

 筋肉を動かす運動神経(神経根、末梢神経)の障害のため、急に手や足に力が入らなくなる疾患です。手足のしびれ感もしばしば伴います。多くの場合、上気道炎や胃腸炎の後1~2週間後に症状が始まります。10万人に1~2人が罹患すると考えられ、どの年齢でも罹患する可能性はありますが、男性の方がやや多いと知られています。原因は自己免疫のシステムが異常となり自分の神経を攻撃するためと考えられています。

【症状】・両手両足の筋力低下
    ・手足の先端にしびれ感
    ・嚥下障害、構音障害
    ・胸を大きく動かせず呼吸できなくなる
    ・自律神経症状(血圧異常、不整脈など)

  • 重症筋無力症

 神経筋接合部(末梢神経と筋肉のつなぎ目)において、神経伝達物質であるアセチルコリンを受け取るアセチルコリン受容体(筋肉側の受け皿)が自己抗体によって攻撃されてしまう自己免疫疾患です。なぜ自己抗体がつくられるかは不明です。10万人に11.8人罹患していて、男女比は1:1.7と女性に多いのが特徴です。

【症状】 
・筋力低下:特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状がでやすい
・易疲労性:筋肉を使うほど力が入らなくなるが、休むと筋力が回復する
・嚥下障害、構音障害

  • 進行性筋ジストロフィー症

 筋線維の破壊・変性と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性筋疾患の総称です。デュシェンヌ型、ベッカー型、顔面肩甲上腕型、肢帯型などがあります。そのうち最も頻度が高いのがデュシェンヌ型なので、デュシェンヌ型について説明します。デュシェンヌ型は2~5歳ごろから歩き方がおかしい、転びやすいなどの症状で発症が確認されることが多数あります。男女ともに発症します。

【症状】 
 ・筋力低下が対称的におこる
  最初は腰帯筋、次第に大殿筋、肩甲帯筋へと筋力低下の範囲を広げる
 ・処女歩行遅滞、易転倒
 ・登攀性起立(ガワーズ兆候)
 ・動揺性歩行
 ・腓腹筋や三角筋の仮生肥大

中医学からみた「痿証」

痿証とは?

 痿証とは、肢体の筋脈が弛緩して軟弱・無力となり、しばらくすると随意運動ができなくなって肌肉の萎縮が起こるという病症です。下肢の萎弱が多くみられることから、「痿躄(いへき)」ともいわれています。
 発病の外因としては主として温熱毒邪、湿熱があり、これらにより津液が損傷すると発症します。また内因としては、正虚または長患いによる虚、あるいは過度な肉体疲労による気血陰精の虧損があげられます。病変は、肺、脾、胃、肝、腎といった臓腑に及ぶと考えられています。

【現代医学における関連疾患】
 筋萎縮性側索硬化症、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、筋ジストロフィー、周期性四肢麻痺、多発性神経炎などの疾患

「気・血・津液・精」がどう痿証に関係するのか?


◆気の働きで痿証に関係する作用

・気の推動作用 ≪気はものを動かす≫
 歩く、走る、話すなどのすべての動作、行動は気の推動作用によりおこなわれています。

【気は血、津液および排泄物を押し動かす】
 気の推動には、血、津液をはじめ、汗、尿、便などを流通、排泄する働きがあります。たとえば血と津液は、気とともに全身をくまなく流れますが、これは気の推動作用によるもので、血や津液が自らの力で流れているわけではありません。つまり、気が不足すると、血を筋脈に送り届けることができなくなります。
【気は臓腑機能を促進する】
 気には臓腑の生理機能を促進する働きがあります。この働きが失調すると、各臓腑の機能停滞や低下などの様々な症状が生じます。

・気の営養作用 ≪気は栄養にかかわる≫
 気のひとつである営気は、栄養物を大量に含んだ気です。営気は脈中をめぐり、一部分の精と津液をひきこみ、血を作り出します。そのため、営気は血と同じく営養作用があります。つまり、気が不足することで血も不足し、筋脈に気血を営養することができなくなります。

◆血の働きで痿証に関係する作用

・血の営養作用
 血は各器官を栄養します。血の不足は、各器官の営養不足を生じさせ、痩せる、知覚が鈍る、爪がもろい、けいれんなどの症状があらわれます。

◆津液の働きで痿証に関係する作用

・津液は関節、靭帯、筋肉に潤いを与え、身体の働きを円滑にします。津液が不足すると、関節を動かしづらい、よく関節の音がするなどの症状があらわれます。

・津液の一部は脈管に入り、気の気化作用で血に転化します。そのため、津液の不足は、血の不足をみちびくことがあります。

◆精の働きで痿証に関係する作用

・精は血に転化する
 精の一部は気の気化作用で血に転化します。したがって腎精が不足すると、血も不足しやすくなります。

・精は成長、発育を促進します
 腎精が不足すると、発育不全、成長が遅いなどの症状があらわれます。具体的に、幼児では、はう、歩く、話すなどの時期が遅れ、よく転んだりします。

「臓腑」がどう痿証に関係するのか?


◆「肝」の働きで痿証に関係する働き

肝は疏泄を主る 
≪肝は全身の気を運行させ、さらに精神状態を安定させる≫
 肝には全身の気を順調にめぐらせる働きがあります。肝はこの疏泄の働きで、全身の気の運行を調節しています。肝の疏泄が失調すると、気のながれが停滞します。そのため、気血が筋脈を養えなくなってしまいます。

・肝は血を蔵す 
≪肝は血の貯蔵庫である≫
 血は身体にとって重要な栄養物質です。肝はこの血を貯蔵、補給する働きがあります。たとえば運動時には筋肉に大量の血が必要であり、読書時にもまた目に大量の血が必要となります。このとき肝は、蓄えてある血を筋や目にあたえ、その活動を栄養面からささえています。また、安静時や睡眠中は血の消耗が少ないので、余った血はいったん肝にもどり蓄えられます。肝血の不足は、筋肉のけいれん、知覚麻痺、目が見えにくい、目が乾く、思考力低下などの症状を生じます。

・肝は筋を主る 
≪肝は筋肉の働きを維持する≫
 筋肉の働きは、肝の血によって維持されています。そのため、肝血が十分であれば、筋肉の働きがよく、長時間の運動や労働が可能となります。肝に異常があると、筋肉のけいれん、ふるえ、知覚麻痺などの症状があらわれます。

◆「腎」の働きで痿証に関係する働き

・腎は精を蔵し、発育・生殖を主る 
≪腎は成長・発育・性欲・生殖とかかわる≫
 精とは生命の根本をなすもので、父母から受けついだ精(先天の精)が、飲食物からつくられた水穀の精微(後天の精)の滋養をうけて形成されます。精は腎に蓄えられているので、腎精とも言います。腎精は血に転化するので、腎精が不足すると血も不足しやすくなります。

◆「肺」の働きで痿証に関係する働き

・肺は一身の気を主る 
≪肺は宗気を生成、気の調節に関与する≫
 一身の気とは全身の気の総称です。肺は呼吸運動で清気を吸い込み、腎にまでおろします。また、濁気を宗気と協力して気道に押し上げ、鼻から吐きだします。この働きが順調ならば、清気と濁気とはつねに入れかわり、体内の清気が充実することになります。また、清気は腎にある元気や飲食物から吸収した水穀の精微とともに、気をつくる元となります。そこで、清気の不足は、全身の気の不足をみちびくことになります。

・肺は宣発と粛降とを主る 
≪宣発は外方、上方および全身に向かう運動である≫
 水穀の精微は脾で吸収され肺におくられます。肺は水穀の精微と気を、皮毛をはじめとして全身に送りこみます。この働きを宣発作用といいます。この働きが正常ならば、皮膚は常にみずみずしく、さらには外邪の侵入を防ぐことができます。この働きが失調すると、皮膚の乾燥、抵抗力の低下などの症状があらわれます。また、全身に気をおくることができなくなるので、非常につかれやすくなったり、各種の機能の低下現象を起こします。

◆「脾」の働きで痿証に関係する働き

・脾は運化を主る 
≪脾は飲食物の消化、吸収の過程を管理する≫
 口から入った飲食物は、胃でドロドロの粥状態に変化します。次に飲食物は小腸におくられ、水穀の精微と残渣とに変化します。飲食物からつくられた水穀の精微は脾が吸収し、さらに肺におくられます。残ったカスは大腸におくられ便になります。この一連の飲食物の消化および吸収の働きは、すべて脾により管理されています。気血津液精の生成には水穀の精微が必要になりますので、脾の働きはとても重要になります。脾は「気血生化の源」と称されます。

・脾は四肢を主る
 脾には四肢の機能をコントロールする作用があります。四肢の機能は脾胃が運化した水穀の精微の栄養によって維持されます。そのため、脾の運化作用が健全であれば四肢の機能は正常であり、動きが軽く力強いのですが、脾の運化作用が失調すると、四肢の栄養が不足するために、倦怠無力となります。

弁証施治


  • 肺熱傷津
 急性熱性疾患のあとに発生し、温熱の邪が肺を犯して肺熱が津液を消耗し、全身の津液が不足して筋脈を栄養することができずに発症します。

【症状】 発熱時あるいは発熱後に突然に四肢の筋力低下が現れる、渇いた咳、咽喉の乾き、胸苦しい、口渇、便秘、尿少で色が濃い

【舌診・脈診】 舌質紅、舌苔黄、脈細数
【治法】 清熱潤燥、養肺生津
【良い食材】 小松菜、アスパラガス、梨、柿、いちじく、白きくらげ、卵、鴨肉、豚肉、カキ、ホタテ貝など
【鍼灸治療代表配穴】 尺沢、魚際、復溜、肺兪、照海、内庭、大椎、曲池など

  • 湿熱浸淫
 湿熱の邪が直接肌膚・筋脈を犯して、気血の運行が阻滞されて発症します。

【症状】 発症はやや緩慢、徐々に肢体がだるくて重くなり筋力が低下する、あるいは軽度の浮腫・痺れ・熱感を伴う、ときに発熱、胸腹部のつかえ、尿少で色が濃い、排尿痛、あるいは口苦・口粘がある

【舌診・脈診】 舌苔黄膩、脈濡数
【治法】 清熱利湿
【良い食材】 はと麦、粟、とうがん、とうもろこし、金針菜、コイ、フナ
【鍼灸治療代表配穴】 陰陵泉、陽陵泉、足三里、合谷、曲池、三陰交、大椎など

  • 脾胃虚弱
 脾胃は「後天の本」「気血生化の源」です。生まれつきの体質、食生活の不節制、慢性病、長期の下痢などで、脾胃の運化作用が失調すると気血が生化されないため、筋脈を養えずに発症します。

【症状】 発症は緩慢、筋力の低下が徐々に悪化、筋肉の萎縮、疲労倦怠感、食欲不振、泥状便、精神疲労、顔面に浮腫があり色艶がない

【舌診・脈診】 舌苔薄白、脈細
【治法】 健脾益気
【良い食材】 うるち米、もち米、山いも、じゃがいも、にんじん、れんこん、干ししいたけ、栗、蜂蜜、鶏肉、豚の胃袋、羊肉など
【鍼灸治療代表配穴】 足三里、太白、陰陵泉、脾兪、気海、中脘など

  • 肝腎虧虚
 肝は筋を主り血を蔵し、腎は骨を主り精を蔵しています。慢性病により肝腎の陰血を消耗してしまったり、節度のない性生活により腎精を消耗してしまうなどで、肝腎の精血が虚損すると筋骨経脈が栄養されず発症します。

【症状】 発症は緩慢、下肢の筋肉が萎縮して力がない、腰背部がだるく長時間立っていられない、甚だしければ全く歩行できない、めまい、耳鳴り、遺尿、男性は遺精・インポテンツ、女性は生理不順を伴う場合もある

【舌診・脈診】 舌質紅、舌苔少、脈細数
【治法】補益肝腎、滋陰清熱
【良い食材】 山いも、栗、黒ごま、松の実、くるみ、鶏肉、スッポン、イワナ、ナマコ、エビなど
【鍼灸治療代表配穴】 肝兪、腎兪、太谿、三陰交、復溜、中封、曲泉など

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