陽萎とは陰萎ともいい、陰茎の勃起不全あるいは勃起が持続しないために性交ができないことを指します。高齢者(「八八」は天葵の尽きる年で、64歳を一応の目途とします)で性機能の減退するのは生理的な現象で、病態ではないと考えます。
現代医学からみた「インポテンツ」
勃起不全(ED:erectile dysfunction)は、男性の性機能障害の一種であり、陰茎の発現、あるいは維持のできないために満足に性交の行えない状態、または性交時に有効な勃起が得られないために満足な性交が得られない状態、通常性交のチャンスの75%以上で性交が行えない状態をいいます。
分類
◆機能性(心因性)勃起障害
解剖学的に勃起機能に異常はないが、何らかの心理的要因などにより満足な勃起ができない状態
◆器質的勃起障害
勃起に関わる神経・組織・血管、あるいは陰茎自体の異常などの解剖学的な問題、もしくは内分泌障害によって満足な勃起を得られない状態
糖尿病、動脈硬化、うつ病、心疾患、腎機能障害などがあげられます
◆混合性勃起障害
機能性勃起障害、器質性勃起障害が混在している状態
◆薬剤性勃起障害
一部の薬剤の副作用として勃起障害がみれらる場合があります。
危険因子
罹患率は年齢に比例して上昇し、明らかな外傷などによるもの以外の原因としては、高血圧、動脈硬化、男性更年期障害などが考えられています。その他、糖尿病、心疾患、末梢血管障害、多発性硬化症、うつ病、腎機能障害などの慢性疾患が原因となる場合や、タバコや過度の飲酒も懸念されます。すなわち、生活習慣病の予防はED対策に効果的であるといえます。
また、心因性のものとしては、精神的なストレス、性に対する誤った教育環境、失業によるストレス、性行為に対する自信喪失、新婚初夜での性行為の失敗が原因となる新婚性勃起障害があげられます。
中医学からみた「インポテンツ」
関係する臓腑
・【腎主生殖】 腎は生殖を主る
「腎は生殖を主る」とは、腎には人体の生殖・生長・発育を統轄する機能があることをいいます。腎は精を貯蔵する臓であり、腎が貯蔵する精気の盛衰は、人体の生殖能力や生長発育において重要な役割を果たしています。人体が幼年から次第に発育し青春期にいたると、男子は精通が起こり、女子は月経が来潮します。さらに発育すると、次第に性機能が成熟して生殖能力が備わります。老年になると性機能や生殖能力は次第に減退し、消失します。この全過程は、実際には腎中の精気が旺盛から衰退へとたどる過程です。つまり、人体の生・長・壮・老・死という自然の盛衰は、腎中の精気の盛衰と密接な関係があります。
【腎臓精】 腎は精を蔵す
「腎は精を蔵す」とは、腎臓には精気を貯蔵して、外に流出させない作用があることをいいます。これは腎の主な生理機能の1つです。腎が貯蔵する精には先天の精と後天の精とがあります。先天の精とは、父母から受け継ぎ腎臓本体に宿る精気で、生育繁殖の最も基本的な物質として、人の生殖・生長・発育・老化に関係します。後天の精とは、五臓六腑によって化生した水穀の精気が生体の生理活動に供給された後、その余剰部分が腎に貯蔵されたもので、人体の生命を維持し、各組織器官を滋養し、生長・発育を促す基本物資です。腎の精を蔵する機能が正常であれば、人体の生長・発育・生殖機能も正常に保たれます。
【脾主後天】 脾は後天を主る
出生後の人体では、その栄養・生長・発育を脾胃の消化吸収機能に依存します。脾胃が飲食物を精微物質に変え、それを臓腑と各組織に輸送することによって全身に栄養を与えます。そのため、「脾は後天を主る」といいます。
弁証施治
陽虚の体質であったり、加齢による腎機能の低下、慢性病、性生活の不節制により腎陽が不足し、体を温める機能や生殖機能が失調し命門火衰が生じます。
【症状】インポテンツ、陰部の冷え
【随伴症状】腰痛、膝が無力、耳鳴り、脱毛、歯の動揺、寒がる、四肢の冷え、るい痩、息切れ、無力感、めまい、頭のふらつき、顔色が白い
【舌診・脈診】舌質が淡胖で湿潤あるいは歯痕、脈は沈細で尺中が弱
【治法】温補腎陽
【良い食材】くるみ、羊肉、鹿肉、スズメ、イワナ、エビ、ナマコ、にら、山椒など
【鍼灸治療代表配穴】次髎、中極、腎兪、命門、気海、関元、太谿など
心配事・思慮の過度などにより心脾が傷害され、脾気・心血が消耗し、後天の化源が不足したために腎気が充足せず、腎精が不足したことにより生じます。
「脾気は心血を統摂する」⇔「心血は脾を滋養する」
【症状】インポテンツ
【随伴症状】動悸、息切れ、汗をかく、夢をみる、物忘れ、顔色が白い、倦怠無力感、るい痩、食欲不振、泥状便
【舌診・脈診】舌質は淡嫩、舌苔は白、脈細あるいは弱
【治法】補益心脾
【良い食材 】米、山いも、じゃがいも、かぼちゃ、キャベツ、いんげん、鶏肉、牛肉、にんじん、ほうれん草、小松菜、イカ、タコ、栗、落花生、ぶどう、蜂蜜、ウズラの卵、豚ハツなど
【針灸治療代表配穴】次髎、中極、心兪、脾兪、神門、三陰交、関元、足三里など
過度な驚き・恐れ・精神的緊張により、腎気が消耗してしまい生じます。
「恐るればすなわち気下る」「驚けばすなわち気乱る」
【症状】平常時は勃起するが、性交の段階になると焦燥・不安のために勃起しなくなる
【随伴症状】びくびくして驚きやすく不安である、元気がない、眠りが浅い、多夢
【舌診・脈診】舌・脈ともに正常(淡紅舌・薄白苔・脈平)
【治法】補益心腎(安神定志)
【良い食材】豚ハツ、ウズラの卵、カキなど
【鍼灸治療代表配穴】次髎、中極、四神聡、心兪、腎兪、神門、太谿、三陰交、豊隆など
肥満して内湿の盛んな人が、脂っこいものを多食したり酒を嗜好し、湿熱が発生して陽明脾胃に停滞して、湿熱が下焦に流注したために生じます。
【症状】インポテンツ、陰部が湿潤してかゆみや痛みがある
【随伴症状】尿が濃く少ない、下肢が重だるい
【舌診・脈診】舌質紅、舌苔は黄膩、脈弦数
【治法】清熱化湿
【良い食材】はと麦、あずき、じゅんさい、にがうり、セロリ、きゅうり、白菜、とうがん、とうもろこし、すいか、緑豆、豆腐、シジミ、ハマグリ、ドジョウなど
【鍼灸治療代表配穴】次髎、膀胱兪、三焦兪、中極、委陽、陰陵泉、三陰交など
予防とケア
・心に余裕をもち、向上心をもち、健康的な精神生活を送る
・適当な運動を行う
・十分な睡眠をとる
・好きな趣味に没頭する時間をつくるなどして、ストレスを解消する
積極的に摂取したい食品
◆亜鉛
精力の減退に効果的とされる栄養素に亜鉛が挙げられます。亜鉛は不足すると生殖能力が衰えるともいわれています。男性ホルモンの合成に深いかかわりがあるミネラルのひとつです。亜鉛を多く含む食品には、カキ、牛肉、レバー、ウナギなどがあります。
◆ビタミンE
性ホルモンの分泌を促して、生殖機能の衰えを軽減する効果があります。ナッツ類、ウナギ、タラコ、カボチャなどに多く含まれています。
◆セレン
セレンというミネラルは精子の数に大きなかかわりをもっています。セレンを多く含む食品は、アジ、マグロ、カニ、アサリ、エビ、玄米、レバー、牛肉などです。
◆アルギニン
精子の主成分であるアルギニンというアミノ酸も大切です。不足すると生殖機能の低下や男性不妊症などにつながるからです。アルギニンを多く含む食材には、牛肉、鶏肉、ナッツ類、ゴマ、大豆、エビ、チョコレートなどがあります。
◆強精作用が知られている食材
ニンニク、ニラ、ゴマ、クルミ、ニンジンなど
インポテンツに効果のある民間療法
◆ニンニクエキス
ニンニクエキスの作り方は、まず、ニンニク4片をすりおろします。それを180mlの日本酒と一緒に瓶に入れて密封し、2ヶ月ほど漬けておくだけです。毎日、スプーン半分ずつ飲んでいきましょう。
◆ヤマイモの冷やし汁
材料はヤマイモ60gにだし汁100ml、レモン汁とニンニク少々です。ヤマイモをすりおろし、だし汁とレモン汁を加えます。最後に、すりおろしたニンニクを加えれば出来上がりです。ご飯にかけて食べてもよいでしょう。
◆クロマメと黒ゴマのハチミツ練り
クロマメを蒸して日干しにしたものをすり鉢ですりつぶします。同様に黒ゴマもすり鉢ですります。クロマメの粉末と黒ゴマの粉末を同量合わせたものに、ハチミツを加えて練り混ぜます。これを小さじ1杯、1日3回食べます。クロマメと黒ゴマには抗酸化作用のある成分が含まれており、昔から腎の機能を補う食品として知られています。またハチミツには精力増強の効果があります。
埼玉県川口市の中医学専門はり灸治療院
【石上鍼灸院】