中医学での月経の定義
月経が終わった直後から排卵直前までの一週間前後がⅠ期です。一般にいう低温期に相当します。この時期はつぎの妊娠への準備期間となります。子宮に充分な気・血・精を貯める時期です。
※肝に貯蔵された血や脾胃で新しく生産された気血などが、まずは衝任脈に流れ込み、最終的には子宮に貯められます。また腎精気から発生した生殖の精および精から転化した血も衝任脈を通じ子宮に入り込みます。子宮に集められた気血精のうち血・精は卵子を育成する基本の物質となります。
病理的には、たとえば肝血虚、脾虚による気血両虚および腎精不足があると、気血精が子宮に貯蔵されるまでに時間を要します。また血・精の不足ゆえ卵子の生成が遅れ、第Ⅰ期の延長がみられます。さらに血・精の不足は良質な卵子をつくれないという重大な問題に発展します。
第Ⅱ期は排卵が始まり受精卵着床までの一週間前後をいいます。気血精が最も充実した時期で、特に最初の一両日が最も妊娠しやすい時期とされます。排卵期に相当します。
この時期より腎精は血ではなく気に転化し、子宮内では少しずつ気の超過状態に入ります。いわゆる高温期と重なります。この有余の気が推道作用を働かせ排卵に至ります。また受精すれば、受精卵を着床まで導いてくれます。
気の超過現象により血熱を起こしやすく、のぼせ、にきび、湿疹があらわれたり、アトピーの方は痒みが強くなったりします。
第Ⅲ期は妊娠の際には受精卵の育成期間、妊娠しない場合は次の月経への準備期間です。一週間ほどをさします。
第Ⅱ期でめでたく受精、着床に成功すると、受精卵は胎児へと成長してゆくことになります。その主な任は有余の気が主ります。また受精卵育成の過程では今まで以上の血・精の濡養が必要になります。受精がなければ有余の気は行き場を失い、気の滞りが起こります。これが軽度の下腹部痛となります。素体に肝気うつがあれば、乳房や胸脇に張りをおぼえ、イライラ感も出現します。
月経は受精がないと判断した際に、子宮が体外に気血精を放出することをいいます。一週間前後続きます。
脾の統血作用や腎の封蔵作用より、肝の疏泄の影響を強くを受け、胞絡(子宮)の気の推動作用が活発になり月経開始となります。
今までの内容を簡単に図でみてみましょう
中医周期療法
中医周期療法の基本的な考え方は、太極図に代表される陰陽の消長転化の考え方を、西洋医学のホルモン動態、基礎体温などに応用したものです。
月経周期を月経期・卵胞期・排卵期・黄体期の4期に分けます。
基礎体温は卵胞期に低く、黄体期に高いため、前者を陰盛の時期、後者を陽盛の時期ととらえ、月経期を重陽必陰の時期、排卵期を重陰必陽の時期とします。これは実際、体内で水分保持に働く卵胞ホルモン(エストロゲン)を「純陰のホルモン」と考えるならば、西洋医学の考え方と一致します。エストロゲンは卵胞期末期に増加し、それが刺激になって下垂体から排卵を促す黄体化ホルモン(LH)が大量に分泌され、排卵が起き、卵胞が黄体化するからです。卵胞が黄体化することによってつくられる黄体は、黄体期の約12~14日間黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌し続けます。黄体ホルモンは基礎体温を0.4℃上昇させ、子宮内膜を黄体化させるので、黄体ホルモンを「純陽のホルモン」と考えます。
月経は、妊娠の不成立を背景にプロゲステロンが急激に消退し、基礎体温が低下した後に発現します。一般的には3~7日間で、月経が続くこの期間を月経期と称します。経血を排泄するこの期間は、中医学的には重陽の極みに達した後、その状態を是正するために経血を排泄し、陰陽均衡状態にいたると考えられます。
治法は一般的に汚濁物質を瀉する時期であるため、理気活血が主となります。
卵子は卵胞の中に存在しています。出生後原子卵胞といわれる状態で成熟を停止していた卵胞は、各周期に複数個ずつ成熟を再開させ、1次・2次卵胞からグラーフ卵胞となり、月経周期第14日目頃に排卵します。
中医学的にはこの時期は陰長陽消・陰長至重の時期です。月経後は血を失っており、「婦人は血を本とする」ため、治法は養血を基本とします。
卵胞期から黄体期に移行する数日を排卵期と称します。排卵期には、卵胞の発育が極期に達し、エストロゲンが増加(重陰)することがきっかけとなって排卵(転陽)します。中医学的にはこの時期は重陰必陽の時期であり、治療の基本は転化の推動による卵子排出の促進です。活血化瘀となります。
黄体期は、排卵を終えた卵胞が黄体へと変化し、黄体ホルモンを分泌し、子宮内膜を分泌期へと変化させます。黄体ホルモンは通常12~14日分泌され続けますが、不妊症の多くの方が11日以下で機能を失います。これは黄体機能不全と呼ばれますが、初期の妊娠を維持する黄体ホルモンが早期に消退してしまうと、たとえ着床していたとしても月経が発来してしまうこととなります。中医学的には助陽により対処することになります。この時期は陽長陰消・陽長至重の時期であり、子宮を温煦し、受胎あるいは月経の準備をします。妊娠のない場合は、次の月経のため、理気活血を行います。
月経の異常
◆月経周期が早まる【月経先期】 周期が8、9日以上早まる
血熱、脾不統血、腎気不固
◆月経周期が遅れる【月経後期】 周期が8、9日以上遅れる
血瘀、気滞、気血不足など
◆月経不順【月経先後不定期】 周期が早まったり遅れたり定まらない
肝気鬱結、脾腎虚損
◆不正出血【崩漏】
血熱、脾不統血、腎気不固、瘀血など
◆月経量が多い【月経過多】
血熱、脾不統血、腎気不固
◆月経量が少ない【月経過少】
血瘀、気血不足
◆非生理的に月経が停止する【経閉】
血瘀、気血不足、腎精の不足、痰湿
◆月経の色がうすくて、サラサラする【経色浅淡、経質清稀】
血虚、気虚、陽虚
◆月経の色が濃く、ネバネバする【経質粘稠】
血熱、湿熱
◆月経の色が紫~黒、血の塊がある【経色紫黯、血塊】
血瘀
◆月経前~月経前半の下腹部痛や腰痛【月経前痛】 激痛が多い
気滞血瘀
◆月経後半~終了後の下腹部痛や腰痛【月経後痛】 鈍痛が多い
気血不足、陰虚、腎精の不足
非月経期の治療の考え方
・Ⅰ期前半
月経終了時は最も空虚な状態になり、とくに腎は虚す傾向にあります。そのため、弁証で得た証に補腎益精を加味します。鍼灸治療穴は中脘・中極・命門であり、特にお灸を多用します。
・Ⅰ期後半
脾肝をはじめ各臓腑から衝任脈に気血精が集まり子宮に送りこまれます。この時期、素体に腎陽虚、気血両虚、瘀血、痰飲などがある方は、気血精が子宮に送りこまれるまでに時間を要しますので、排卵時期が遅れてしまいます。
鍼灸治療穴は、腎陽虚には中極・関元・腎兪・命門など、気血両虚には足三里・三陰交など、瘀血には血海・地機・三陰交など、痰飲には豊隆などを選穴します。
気血精がある一定量に達すると卵子が形成され、有余の気の推動により排卵されます。推動が強くなったぶん、肝の疏泄の影響を受けますので、肝気鬱があると排卵期が大幅にずれてきます。そこで、疏肝理気を行います。
鍼灸治療穴は太衝・子宮などを選穴します。
妊娠を想定しながら固摂・健脾・補腎・補陽に努めます。鍼灸治療穴は中極・関元・帯脈・足三里・照海などを選び、仙骨を温めてもらうことも大事になります。
妊娠の可能性が全くないのであれば、合谷・太衝・子宮などで全身および子宮の気を調整します。
弁証施治
虚弱体質や腎気が不足し、衝任脈が虚して胞脈(子宮上に分泌している脈絡)を栄養できずに発症します。
【症状】月経周期の延長あるいは無月経、経血色が暗淡で量が少ない
【随伴症状】下腹部の冷え、性欲の減退、腰や膝がだるく無力、小便清長(尿が透明で排尿の際に勢いがなくやや時間がかかる)、めまい、耳鳴り
【舌診・脈診】舌質淡、舌苔白、脈沈細で無力
【治法】温補腎陽、調経衝任
【良い食材】にら、唐辛子、山椒、栗、黒ごま、松の実、くるみ、黒砂糖、鶏肉、羊肉、ウナギ、ナマコ、エビ、イワナなど
【鍼灸治療代表配穴】腎兪、気海、関元、帰来、子戸、胞門など
虚弱体質、多量の出血、脾胃気虚による生化不足などで気血不足をきたし、衝任脈が虚して摂精できす発症します。
【症状】 月経周期の延長、経血が淡色で量が少ない
【随伴症状】 顔色が萎黄、痩せる、脱力感、めまい、頭のふらつき
【舌診・脈診】 舌質が淡、舌苔が薄白、脈沈細あるいは弱
【治法】 益気補血、滋腎養精
【良い食材】 米、山いも、じゃがいも、かぼちゃ、キャベツ、いんげん、にんじん、ほうれん草、小松菜、ぶどう、栗、蜂蜜、鶏肉、牛肉、豚レバー、イカ、タコ、ウナギ、豆腐、黒ごま、黒豆、卵、牛乳、スッポン、アワビ、貝類など
【鍼灸治療代表配穴】 三陰交、地機、足三里、関元、子戸、胞門、肝兪、脾兪、腎兪など
陰虚の体質、慢性病、熱性疾患の傷陰などで陰虚が生じ、胞宮に虚熱が鬱積したために生じます。流産後に発生することもあります。
【症状】 月経周期が短縮し経血が紅色で量が多い、あるいは月経周期が延長し経血が暗色で量が少ない
【随伴症状】 顔面紅潮、口唇が紅色、頭のふらつき、耳鳴り、不眠、口や喉の乾燥、焦燥感、寝汗、潮熱(毎日特定の時間に発熱する症状)
【舌診・脈診】 舌質が紅、舌苔は薄白か薄黄、脈が数
【治法】 滋陰清熱
【良い食材】 セロリ、せり、トマト、きゅうり、小松菜、アスパラガス、白きくらげ、白ごま、牛乳、卵、鴨肉、豚肉、アワビ、ホタテ貝、カキなど
【鍼灸治療代表配穴】 腎兪、陰交、太谿、三陰交、然谷、子戸、胞門、子宮など
情志が抑うつして肝気が条達できず、気血が失調して胞脈が通暢できないために生じる、虚実挾雑証です。
【症状】 月経周期と経血量が一定しない、経血が紫色で小凝血塊が混じることが多い、月経痛、月経前に乳房が脹って痛む
【随伴症状】 イライラして怒りっぽい、せっかちである、精神抑うつ
【舌診・脈診】舌は正常、あるいは舌質は暗紅、舌苔は薄白かやや膩、脈細弦
【治法】 疏肝解鬱、養血益脾
【良い食材】 そば、えんどう豆、らっきょう、なた豆、大根、香菜、大葉、みかん、オレンジ、ジャスミンなど
【鍼灸治療代表配穴】 肝兪、太衝、関元、三陰交、足三里、子戸、胞門、子宮など
肥満体質で痰湿が内生したために胞宮が閉塞され、受精できなくなり生じます。
【症状】 無月経あるいは月経周期延長、月経期間正常~延長、経血量は少ない、経血は紅色、多量の白色帯下
【随伴症状】 肥満体、多毛、めまい、動悸、無力感、顔面や四肢の浮腫、胸苦しい
【舌診・脈診】 舌苔が白膩、脈が濡滑
【治法】 燥湿化痰
【良い食材】 大根、大麦、はと麦、あずき、金針菜、とうがん、海藻、コイ、フナなど
【鍼灸治療代表配穴】 豊隆、帯脈、子戸、胞門、腎兪、脾兪、三焦兪、次髎など
月経時あるいは産褥期の性交のために邪が胞宮に侵入し、気血の流通を阻害し湿熱が停滞したために生じます。
【症状】 月経周期が早まる、経血は鮮紅色で粘り気をおびる、多量の黄色帯下、月経時に増悪する下腹痛、月経期間延長
【随伴症状】 陰部の掻痒寒、口が苦くのどが渇く、腰や下肢がだるく力が入らない、尿の色が濃い黄色
【舌診・脈診】 舌質は紅、舌苔は黄膩、脈が沈弦あるいは滑数
【治法】 清利胞宮
【良い食材】 はと麦、とうもろこし、大豆、あずき、にがうり、きゅうり、とうがん、すいか、金針菜、豆腐、コイなど
【鍼灸治療代表配穴】 豊隆、帯脈、子戸、胞門、腎兪、陰陵泉、行間など
気が滞ったり寒邪が内侵するなどで、衝任脈の気機が不利となり、血が滞り生じます。
【症状】 月経周期延長、月経期間延長、経血は暗紅で血塊が混じる、月経痛は刺痛あるいは絞痛、血塊排出後に減痛
【随伴症状】 疲労感があり体に力が入らない、眼下の黒ずみ、月経時ののぼせ・微熱・口渇・便秘
【舌診・脈診】 舌質は暗紫あるいは暗紅、瘀点・瘀斑、脈渋
【治法】活血化瘀
【良い食材】 チンゲン菜、甜菜、くわい、酢、酒など
【鍼灸治療代表配穴】 関元、血海、地機、腎兪、子戸、胞門、膈兪、三陰交など
「精液清冷」の弁証施治
生まれつきの虚弱体質、慢性病、大病による消耗、少年期の頻繁な自慰などにより、腎気が消耗したために発生します。
【症状】 精液がうすく量が少ない
【随伴症状】 身体虚弱あるいは痩せる、顔色につやがない、無力感、息切れ、膝や腰がだるく無力、脱毛、歯の動揺、頻尿、夜間多尿
【舌診・脈診】 舌質は淡、脈細で尺脈が弱
【治法】 補腎益精
【良い食材】 白きくらげ、黒ごま、卵、烏骨鶏、鴨肉、豚肉、アワビ、ホタテ貝
【鍼灸治療代表配穴】 腎兪、関元、太谿、三陰交
腎気不足が進行し、腎陽不足による命門の火の衰えで虚寒が生じたために発生します。
【症状】 精液がうすく量がすくない、あるいはゼリー状の塊をまじえる
【随伴症状】 陰部や股間の冷え、手足の冷え、寒がる、腰がだるく痛い、倦怠感、顔色が白い、元気がない、尿量が多い、泥状便
【舌診・脈診】 舌質は淡で胖大、脈は沈細で微
【治法】温補腎陽
【良い食材】 くるみ、羊肉、鹿肉、エビ、ナマコ、イワナ、にら、らっきょう、胡椒、唐辛子
【鍼灸治療代表配穴】 腎兪、命門、気海、関元
不妊症に有効な民間療法
◆ハトムギの二度煎じ汁
ハトムギ20g(約大さじ2)は水で洗い、水540mlと一緒に鍋で煮ます。約半量まで煮詰まったら、水270mlを加え、さらに半量になるまで煮詰めます。仕上げにサフランを加えます。
◆ごぼう酒
ごぼう1本(約130g)を、皮のついたままたわしなどでこするようにして洗い、細かく刻む。これをガーゼに包んで、蒸し器で30分ほど蒸します。ガーゼに包んだまま保存容器に入れ、日本酒1.8ℓを加えて、冷暗所に2ヶ月おくと、不妊症に有効なお酒になります。
◆サフランの上澄み液
サフラン8~10本ぐらいをカップに入れて熱湯を注ぎ、その上澄みをお茶代わりに飲みます。サフランには、血液をサラサラにして血流を促進し、体を温める働きがあります。作用が強いので1日3杯までとし、摂取しすぎないように注意します。また、妊娠後は服用を中止します。
◆野菜のジュース
体調を整えるのに不可欠な栄養素がビタミンです。サラダや煮物などで取るのもよいのですが、たまには目先を変えて、青汁にして飲んでみてはいかがでしょう。小松菜、キャベツ、ニンジンの葉、オオバコ、ハコベ、ユキノシタなどをジューサーにかけ、1回グラス半分程度を朝夕飲みます。飲み過ぎは体を冷やすので要注意です。
男性不妊症に効果のある民間療法
◆とろろ芋
とろろ芋をおろして、食べるだけの手軽な民間療法です。そのまま食べてもよいし、ご飯にかけて食べてもよいでしょう。マグロなどにかけてもおいしくいただけます。
◆あずき粥
あずき30gと米50gを用意します。あずきを軟らかくなるまで煮てから、米を入れるだけで簡単にできるおかゆです。朝晩2回食べるようにします。湿熱を除き、尿の出を良くします。特に、湿熱が原因の射精不能に効果があります。
◆米油がゆ
用意するものは、米200gと卵1個です。作り方は、まず適量の水に米を入れ、20分間煮て米を除きます。残った米汁に卵をといて入れ、少々煮れば出来上がりです。食事の時に一緒に食します。精液の量が少なく、薄い人に有効とされます。